『どうしても生きてる』を読んで



全6編から成る短編小説集で、現代を生きる男女それぞれの物語が描かれている作品。

朝井リョウの作品をきちんと読んだのは、『何者』がはじめてだったように思う。
映画化されたタイミングが、ちょうど自分たちが就職活動を控えた大学3年生の頃で、当時、友人とドキドキとしながら映画館に観に行ったのを今でもよく覚えている。
その少しあと、読書好きの姉が買ったのか、家に小説があったのだが、就活に苦戦をしていたわたしは、しばらくその本を開くことすらできなかった。

わたしのなかでの著者のイメージを一言で表すならば、“しんどい”。
とにかく“しんどい”。

本作では、日常に潜む誰しもが抱えているであろう小さな暗い気持ちや、できれば目をつむってしまいたい自分の内側にある醜さがありありと描かれている。その解像度の高さは、どの物語も他人事とは思わせないほど。

小説を読んでいるはずなのに、現実の世界に引き戻されるこの感覚。それはまるで、背けたい事実を目の前にして、誰かに無理やり椅子に座らされ、肩を後ろから押さえつけられながら「現実を見ろ!」と迫られているような気持ちになる。

もちろん、本書に収められた六編はフィクション、すなわち「虚」である。しかし、各編のなかに生きる男女が対峙する世界はとことん現実だ。ご都合主義なことは決して起こらない。夢を自ら捨てた男に、救済の手はどこからも差し伸べられないし、深刻な検査結果が「誤診でした」と覆ることもない。どうにもならぬ日常は、依然としてままならぬまま。突然、世界が反転して、ハッピーエンドが訪れることはない。

万城目学「解説」『どうしても生きてる』朝井リョウ著 p297~P298


巻末に掲載されている万城目学さんの解説が、大変しっくりときた。

わたし自身、物語を読むときは、大抵現実を忘れたい、日常から離れたいという思いから手にすることが多い。
それなのにどうしてわざわざ“しんどい”思いをして、著者の作品を選んだのか。

同じ温度のなかでもがき苦しみながらも、それでも生きようとしていく彼らの姿を目にしたとき、「ああ、自分だけじゃないんだ」と思えるのである。

万城目さんが解説するように、『世界が反転して、ハッピーエンドが訪れることはない』けれども、それでも、その暗闇のなかで小さな光を見つけるような希望が、ここにはあるような気がした。

ただ注意事項として、この作品は、比較的元気があるときに読むことをおすすめしたい。


◼︎『どうしても生きてる』朝井リョウ(幻冬舎)
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344431416/

コメント

タイトルとURLをコピーしました